北米西岸港湾労働者団体ILWUと使用者団体PMAとの現在の労働協約は2014年6月末で失効するため、交渉が開始される4月以降の西岸港ストライキ及び荷役ペースダウン等の可能性が大いに考えられると注目されています。
6年ごとに更改されているこの労使交渉ですが、西岸港では、過去の労使交渉も難航するケースが多く見られ、2002年には交渉がもつれた結果最終的には米国西岸29港が閉鎖されるまでの事態に発展し、サプライチェーンに与えたダメージは大きく、港湾閉鎖は最終的にタフト-ハートレー法に基づく大統領令で解除されるまで続いたそうです。また、2008年の更改交渉では、ストこそは発生しませんでしたが、組合側のスローダウン戦術によって港湾処理能力が著しく低下するといった影響が出たそうです。
そんな中、今年の交渉で争点となっているのは、機械化と職域確保をめぐる対立のみならず、医療保険制度改革(オバマケア)における高額保険への課税問題も注目されているようです。これらの問題は、2年前の東岸港における労使交渉でも大きな争点となり、交渉難航から協約を2度に渡って暫定延長し、ストを回避したという経緯があります。機械化で人員削減を進めたい使用者側と、職域確保を掲げる組合側とでは主張の隔たりが大きく、交渉の難航だけでなく、ストライキによる物流混乱を懸念する声が少なくないようです。ストが発生した際の為替レートとしては東岸港経由やバンクーバーなどカナダ経由のレートが考えられますが、実際には大量の貨物を急遽受け入れられる余地は限られているようです。これらストに備える動きはまだ目立っていないようですが、船社や荷主関係者は「現実的には、あらかじめ在庫を積み増しておくしか対処方法はないのではないか」と指摘をしており、ILWUの健康保険は使用者側が負担していますが、新たな課税で発生する負担額は総額1億5000万ドルに達すると見積もられておりこの費用の負担方法でも協議の難航が予想されています。
PMA側からは新労働協約の期間を、今回のみ2017年まで有効の3年間として、その次の更改交渉で同問題を取り上げることを検討する動きも出ているようで、PMAとILWUの第1回目の労使交渉は4月1日に予定をされていますが、船会社や北米鉄道関係者からは「すんなり妥結する可能性はまず無い。」と予想する声が多いです。もし仮に期限切れの前に新協約に妥結ができるとしても、交渉がぎりぎりまでもつれ、少なくとも荷役スローダウンによる物流の遅延は免れないとの見方が大半で荷主企業側でも「ストライキ発生の可能性はあり得ると見ている」と、声が聞かれています。
今回の交渉で具体的に取り得る対策として考えられるのは、
(1)あらかじめ在庫を積み増ししておく
(2)今年は更改交渉が行われないカナダのバンクーバー港やプリンスパート港を使用する
(3)北米東岸ルートを使用する
の三つが主に考えられる。
とはいうものの、仮にストライキが実際に発生をした場合、カナダ経由あるいは東岸経由のルートにスムーズに切り替えられるとは考えにくいものです。
両ルートとも、現在の貨物に加えて新たな貨物を引き受けるキャパシティーは限られており、実際にストが発生してしまった場合は船社や鉄道会社としても取れる対策が限られています。カナダの鉄道会社関係者によると、「ストが発生してから、大量の貨物が一気にシフトをしてきたら引き受けるのは不可能。ストに備えてカナダルートを検討するなら、今の段階から利用実績をある程度作っておかないと緊急時に対応をすることは難しくないだろう」と指摘をしているそうです。
このために現実的な対策として、問題が生じる前に在庫を積み増しして対応するしかない。というのが船社や荷主の見方のようです。
今のところストに備えての出荷が増えるなとの目立った動きは見えていないようですが、そうした動きも「3月以降は徐々に出てくるかもしれない」と船社関係者は予想をしているようです。